スーツ(ジャケット)の袖には、「本切羽(ほんせっぱ)」と「開き見せ(あきみせ)」と呼ばれるデザインがありますが、スーツを購入する際、どちらを選択するか迷ったことがある方も多いでしょう。また、それぞれの役割や違いは何か、気になっている方もいるかもしれません。
この記事では、本切羽の基本的な仕立てと、開き見せとの違いについて解説します。本切羽がもたらす実用性や高級感といったメリットに加え、費用面や着用シーンにおける注意点についても触れています。
さらに、着こなしの工夫やオーダースーツを扱うショップの情報もまとめていますので、本切羽を取り入れるかどうかを考える際の参考にしてください。

本切羽とは
スーツの袖口に見られる本切羽は、袖口が実際に開閉できる仕立てのことを指します。必要に応じて袖をまくることが可能です。
ここからは、本切羽の以下の項目について解説します。
ひとつずつ見ていきましょう。
本切羽の由来
想像しにくいかもしれませんが、かつてはスポーツや運動をする時、また農業、漁業、工業などの仕事をしている時、さらには自宅でくつろいでいる時にも、多くの人々がテーラードジャケット(またはテーラードシャツ)を着ていました。そのため、「袖がまくれないことは非常に不便」だったのです。この背景から、当時は「袖が開く」本切羽は、必須ともいえるディテールでした。
しかし、時代が進み、ブルゾンやジャンパー、ジャージ、スウェット、トレーナー、カットソーなどの便利なアイテムが次々と登場することで、ジャケットの着用シーンが限定的となり、本切羽の必要性は次第に薄れていきました。
もともとスーツはすべて手縫いのオーダーメイドでしたが、ミシンの発明により既製品のスーツが生産されるようになると、いよいよ「袖が開かない」開き見せスタイルが一般的となり、本切羽は次第に減少していったのです。
本切羽の種類
本切羽には、実際に開閉できるボタンホールが備わっているタイプと、ボタンホールがない、または装飾的なボタンホールが付いているタイプの2種類があります。後者のタイプでは、袖口を開閉できるように内側にスナップボタン(ホック)が付けられています。
実際に開閉できるボタンホールが備わっているタイプは「本穴かがり切羽」と呼ばれ、スナップボタンを使用するタイプは「スナップ留め本切羽」と呼ばれます。
さらに、本穴かがり切羽には、「自動穴かがりミシン」を使用したものと、人の手によって一穴一穴丁寧に「手縫い」で仕上げられたものがあります。後者は「手縫い本穴かがり切羽」として、オーダーメイドの最高級技法の一つとして知られています。

本切羽の役割
本切羽の特徴は、ジャケットの袖口を実際に開閉できる点にあります。これにより、袖を軽く折り返したり、まくり上げたりすることができ、実用的で柔軟な着こなしに対応できます。
本穴かがり切羽
現代における本穴かがり切羽は、元々の目的である「袖の開閉」に焦点を当てるよりも、「高級感」を重視した仕様となっています。特にオーダースーツの証としてこのディテールが使用されることが多く、ファッション性を重視する人々に人気のオプションとなっています。
スナップ留め本切羽
スナップ留め本切羽は「袖の開閉」ができる点にフォーカスしており、比較的手軽に実現できるため、本来の機能を重視する方におすすめです。
手縫い本穴かがり切羽
手縫い本穴かがり切羽は、熟練した職人であってもスーツ一着すべての穴を開けるのに数時間を要し、高度な技術を必要とするため非常に高価ですが、その技術の高さから、これを施したスーツはもはや工業製品の域を超え、工芸品とも呼べる仕上がりになります。
開き見せとは
開き見せとは、スーツの袖口が割れており「開いているように見せる」仕様のことです。開いているように見えるだけなので実際に開閉することはできません。また、実際には開かないボタンホールのことを「眠りボタン」と呼ぶため、開き見せのことを別名「眠り切羽(ねむりせっぱ)」と呼ぶ場合もあります。

ここからは、開き見せの以下の項目について解説します。
ひとつずつ見ていきましょう。
開き見せの由来
もともと袖釦は実際に開閉できる本切羽が主流でしたが、時代の流れとともに本切羽の必要性が薄れていき、手間を省くために装飾目的のみのボタンを取り付けるようになったのがはじまりです。
やがてミシンが発明され既製品が一般的になっていくにつれ、開き見せはの需要は高まっていきました。理由の一つはコストダウンになることと、もう一つは袖丈の修理をしやすくするためです。
開き見せの種類
開き見せには、単純に袖先が割れているだけのものと、袖先の内側が額縁の角のように斜め45度に縫い合わせてあるものがあり、特に後者のことを「半額縁仕立て(はんがくぶちじたて)」と呼び、より高級感があり見た目も本切羽に近くなります。ちなみに開き見せになっていない袖のことを「筒袖(つつそで)」と呼び、もっとも安価な製造方法となります。

開き見せの役割
開き見せは、先述のとおり「開いているように見せる」ためのものであり、それ自体に役割はありませんが、袖丈の修理をしやすくするというメリットがあります。既製品は修理することを前提として作られているため、開き見せは既製品に適した仕様といえるでしょう。
本切羽スーツのメリット
本切羽メリットとして、以下の3つが挙げられます。
それぞれ解説します。
高級感と本格的な印象を与えられる
本切羽が施されたスーツは、着る人に上品で格調高い印象を与えます。量産型のスーツにはない、細部にまでこだわった丁寧な仕立てが感じられるため、完璧な着こなしを追求する人にふさわしい仕様です。
ほとんどの既製品には本切羽が採用されていないため、このディテールはオーダーメイドの証として、「本格的なスーツである」という印象を与え、他のスーツとは一線を画す仕立ての良さを際立たせます。
さらに、袖口のボタンをひとつ外して着こなすことで、センスを感じさせる装いを演出できます。個性的な着こなしを求める場合にも、本切羽は効果的です。このように、本切羽は着る人の信頼感や品格を一層引き立てる役割を果たします。
おしゃれを演出できる
本切羽を取り入れたスーツは、細部に工夫を凝らすことで、自分らしいセンスを表現できます。袖口のボタンをひとつ外すだけで堅苦しさが軽減され、自然体で洗練された印象を与えることができます。また、袖を少し折り返すことで、リズム感のある着こなしが生まれます。
特に注目されるのは手首周り。腕時計やブレスレットをさりげなく見せることで、アクセサリーが引き立ち、より一層おしゃれな雰囲気が漂います。
袖をまくる際のバランスや見え方に気を配ることで、大人の余裕を感じさせる洗練されたコーディネートが完成するでしょう。
ほかの人との差別化を図れる
本切羽は、スーツに個性を加えるディテールとして注目されています。既製品ではあまり見かけないため、取り入れるだけで他の人とは一線を画す装いを演出できます。
特にオーダースーツでは、袖口の仕様に加え、ボタンの素材や糸の色などをカスタマイズすることも可能です。これにより、自分のこだわりを細部にまで反映させることができます。
こうしたカスタマイズによって、シンプルなスーツでも袖口に工夫を施すことで印象が大きく変わり、見る人の目を引きやすくなります。
本切羽スーツのデメリット
一方で、以下のようなデメリットもあります。
それぞれのデメリットについて解説します。
値段が高くなる
本切羽を採用したスーツは、開き見せ仕様と比較して製作コストが高くなります。専用の特殊ミシンを使用し、通常のミシンよりも手間がかかるうえ、開き見せよりも多くの生地を必要とするためです。
そのため、ほとんどのオーダースーツ店では本切羽をオプション扱いとしており、取り入れる際には追加料金が発生することが一般的です。
既製品では袖丈の調整が難しくなる
本切羽が施されたスーツは、袖口に穴が開いているため、サイズ調整が難しくなります。実際、本切羽仕様の既製品はあまり流通しておらず、既製品で本切羽を採用している場合、袖丈を短くしたいと思っても、調整がほとんどできません。
ただし、ブリオーニやキートンなど、1着50万円以上もするような超高級スーツの場合、既製品であっても袖丈の修理が可能です。これは、袖丈の修理後に本切羽に仕立て直せるように、袖口が未完成の状態で納品されるためです。しかし、この場合、袖丈の修理は必須となります。
本切羽スーツの着こなし方
うまく着こなすポイントは、以下のとおりです。
それぞれのポイントについて解説します。
ボタンの数や並べ方にこだわる
本切羽のスーツを選ぶ際、袖口のボタン数や配置にも注意を払うことで、より完成度の高い着こなしが実現できます。ボタンの数には明確なルールはなく、時代やトレンド、スタイルの違いによって変化してきました。
現代では、ビジネス用として4個のボタンが一般的に選ばれますが、2個や3個のボタンを選ぶことで、個性的な印象を演出することも可能です。2個のボタンはトラッドスタイルに、3個はクラシックな印象を与えるため、それぞれのスタイルに合わせて選ぶと良いでしょう。ただし、流行によってはボタンの数や配置が変わることもあるため、その点にも留意する必要があります。
ボタンの並べ方にもバリエーションがあり、「重ねボタン」は立体感を演出し、華やかさを加えることができます。しかし、重なりによる摩耗や破損のリスクがあるため、素材選びには慎重さが求められます。
一方で、より格式のある印象を求める場合には、「並びボタン」が適しています。シンプルで端正な印象を与えるため、フォーマルな場面にも適しており、品格を感じさせる仕上がりになります。

先端のボタンを1個だけ外す
本切羽の魅力は、袖口のボタンをひとつ外すだけで、着こなしに程よい抜け感を加えられる点にあります。スーツは本来、フォーマルな印象が強く、どうしても堅苦しくなりがちですが、あえてボタンを外すことで、余裕を感じさせる洗練された着こなしが完成します。
イタリアでは、先端のボタンホールの色を一つだけ変え、そこだけボタンを外すというスタイルが人気です。まさにイタリアらしい、洒落た着こなしと言えるでしょう。

インナーを折って出す
スーツスタイルに程よい抜け感を加えるテクニックのひとつが、シャツの袖口を外に折って見せる方法です。手首をさりげなく露出させることで、大人の余裕や軽やかさを演出でき、洗練された印象を与えます。
例えば、黒やネイビーのジャケットに白シャツの袖を折って見せると、コントラストが効いてメリハリが生まれます。
また、袖口から覗く手首やアクセサリーは、程よいアクセントとなり、無理のないおしゃれを演出できます。特にカジュアルなシーンやパーティーでは、堅さを和らげつつ、センスの良さを際立たせることができます。
肘のあたりまで袖をまくる
本切羽仕様のスーツでは、袖をまくるアレンジも楽しむことができます。肘までしっかりと袖を上げるスタイルは、程よいラフさを演出し、周囲に好印象を与えるため、人気のある着こなしです。
袖をまくる際には、袖裏地の色やデザインにもこだわるとよりおしゃれに仕上がります。ダークトーンよりも明るめの色を選ぶと、より洗練された印象を与えることができます。ただし、バランスを誤ると雑に見えてしまうことがあるため、注意が必要です。
着こなしに自信がない場合は、ファッション誌やスタイリング事例を参考にすることで、失敗を避けながら取り入れやすくなります。
本切羽などディティールにこだわりたいならリングウッド
本切羽などのデティールにこだわったスーツをお考えなら、オーダースーツ専門店「リングウッド」をぜひご検討ください。リングウッドでは、細部に至るまでお客様のご要望に合わせた仕立てが可能です。
例えば、袖口のボタンや糸の色など、既製品では選べないディテールまで自由にカスタマイズできます。あなただけの一着を作り上げることができます。
さらに、リングウッドでは、初めての方にも安心してご相談いただける体制を整えています。本切羽をはじめとした細かなディテールへのこだわりもしっかりサポートいたしますので、どうぞお気軽にお尋ねください。

まとめ
本切羽は、スーツの袖口に上品さを感じさせるディテールとして、多くのスーツ愛好者に支持されています。もちろんボタンの開閉が可能な実用性も、その魅力の一つです。
細部にまでこだわり抜いたオーダーメイドスーツをお求めの方は、オーダースーツ専門店「リングウッド」へぜひご相談ください。豊富な知識を持つスタッフが、あらゆるタイプのオーダーに対応し、細部にわたるサポートを丁寧に行います。