リングウッドのこだわり

スーツの良し悪しは「生地」「デザイン」「仕立て」で決まります。なかでも仕立ては、生地やデザインと違って目に見えないため最もわかりにくい部分と言えるでしょう。わたしたちリングウッドのオーダースーツは、この目に見えない部分にもこだわった洋服作りをいたしております。ここではそんなこだわりについてご説明いたします。

みなさんはスーツの仕立ての良し悪しを判断する時にどこを見ていますか?

  • 糸がまっすぐ縫われているか
  • 糸のほつれがないか
  • ボタン付け緩んでいないか
  • もちろんこれらも大切なことではありますが、わたしたちプロが見る部分は違います。

    じつはスーツは手を抜いて(工程を減らして)作ろうと思えばいくらでも作れてしまいます。材料を減らしたり質を落として仕立てることも簡単にできてしまいます。

    しかもこれらは外見からではほとんどわからないため、工程を減らせるだけ減らし、材料の質を落とせるだけ落とし、糸のほつれとボタン付けと、真っ直ぐな運針だけは気をつけて作られたものがとても多く流通しています。なかには目に見えるお台場部分のみ高級仕様にして「見せかけの高品質スーツ」というものも存在します。(残念ながら高級ブランド品や高品質を謳うオーダーメイド商品にも)

    当店と同じような価格帯で売られているスーツの場合、利益を確保するのが難しいためか、多くのブランドがこうした「見えない部分でコストダウン」したスーツを販売しているのが現状です。

    わたしたちプロがまず見るのは以下のポイントです

  • どんな芯地や副資材が使われているか
  • どれくらい手間(工程数)をかけて作られているか
  • きちんと立体裁断&縫製されているか
  • これらはまさに「良い仕立てで作られているか」を知る重要なポイントであり、原価にも大きくかかわってくるからです。特に芯地にかかるコストは10倍以上も違ってきます。

    ~見えない部分に大きな違い

    芯地による仕立ての違い

    右より

    (接着芯仕立/ヒュージングプレス)表生地と芯地をノリで接着してしまう方法。芯地は化学繊維でできており、あらかじめノリが付いているためプレスするだけで簡単に接着が完了でき、作業スピードが圧倒的に早く効率的で、芯地自体も安価なため最もコストがかかりません。

    (総毛芯仕立/フル毛芯/フルキャンバス)表生地と芯地が離れており扱いに手間のかかる方法。芯地は主に天然素材でできており高価で、ハ刺しと呼ばれる表生地を部分的にすくいながら芯地に留める工程に時間も技術も必要なため、最もコストがかかる方法です。

    (半毛芯仕立/ハーフ毛芯/ハーフキャンバス)接着芯仕立てと総毛芯仕立てのいいとこ取りをしたハイブリッド方法。スーツの命とも言える衿と肩周りには毛芯を使用し、影響の出にくい前身の下半分には接着芯を使用することでコストを抑える方法です。

    ~外見からわからないなら別に気にしなくてもいいんじゃないの?

    毛芯が良い3つの理由

    外見から違いがわかりにくいのは、買ってしばらくの間だけです。買ってすぐの場合はどの仕立ても綺麗で立派に見えるかもしれませんが、着用していくうちにその差は歴然としてきます。

    1.型くずれしにくい

    接着芯で作られた服は、何度かクリーニングに出すうちにクタクタにくたびれやすくラペルのボリューム感もなくなり、最終的には芯と生地が剥がれて表面がデコボコしてくる場合があります。特に雨や汗で濡れた場合は顕著に差が表れてきます。値段が高いから良い仕立てとも限りません。ちなみに下の参考画像はお客様からお預かりしたスーツで、1着10万円以上はする某有名ブランド(接着芯)のものです。

    画像:接着芯が剥離した胸元とボリュームなくペタンとした衿

    2.立体的でボリュームある衿元を作る

    毛芯は表生地と芯地が離れているため、衿部の内周を外周よりも短くすることができ、立体的で大きなカーブを描くようなラペルの返りを作り出すことができるのに対し、接着芯はそもそも表生地と芯地がくっついてるため、当然内周も外周も同寸法となりパキンと折れたような衿の返りになり、結果としてボリューム感のないペタンとした衿になります。

    イラスト:毛芯と接着芯の衿断面図解説図

    3.通気性に優れ快適な着心地

    毛芯の中でも馬の尾毛を使用した本バス毛芯は、適度な張りと堅牢性、そして優れた通気性を合わせ持ち、芯地素材の中でも最高級品と呼ばれています。当社でお仕立するスーツには、この本バス毛芯が使われています。ちなみに下の参考画像は、当店のホワイトラベル仕立てでスーツ上下4万7千円の商品です。

    画像:立体的でボリューム感のある衿元

    ~結局良い仕立てとは?

    わたしたちのモノづくりにかけるこだわり

    「良い仕立てとは?」というのはつまり「どれだけコストがかかっているか?」と言い換えることができます。ブランド品や有名メーカー品、チェーン店、百貨店などで売られている商品は、一般的に3割以下の原価率だと言われています。まして上場企業ともなれば、株主からの厳しい目が注がれるため営業利益を出すために2割、1割とどんどん原価率を下げていく傾向にあります。

    売値に対して1割~3割程度のコストで作られるスーツは、いくら高価格帯の商品であっても価格と品質が釣り合っていないという意味では良い仕立てと言えないでしょう。逆に、低価格帯の商品でそんな低いコストで作られた服が良い仕立てであるはずもありません。

    当店でお仕立てするスーツは、たとえ一番安いブルーラベル仕立てであっても可能な限りコストをかけて、手を抜かずにお仕立てしています。3万7千円で売られている商品に10万円以上のクオリティーを求めることは不可能ですが、高価格帯の商品も、低価格帯の商品も、いずれもコストパフォーマンスに優れた価格以上の価値をご提供したいとの思いでモノづくりをいたしております。

    これを読んでいただいた方にはぜひとも、糸のほつれやボタン付けといった目に見える部分ではなく、目に見えない部分こそが肝心なんだということをご理解いただけたらと思います。

    少なくとも、

    「このスーツは糸のほつれも無いし縫い目も綺麗だから仕立てが良い」
    「このスーツは○○ブランドで10万円以上もしたから良いスーツ」

    ではないんだ。ということだけでもご理解していただけると幸いです。